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がんばりすぎずにあるこうや。

「時代」の変わり目に

三連休に行われたフィギュアスケート全日本選手権を見ました。最近あんまりフィギュアは見なくなってて、GPシリーズは放送時間が合わなかったり出場選手が少なかったりなのでさっぱり見てなかったんですが、でも全日本と世界選手権は毎シーズン見てます。今年は特にオリンピックに向けての最終選考も兼ねてますし、ちゃんと見ないとダメかなという気がしましてね。初日は時間が合わずに見られなかったので、2日目と3日目だけになってしまいましたが、久しぶりにガッツリ見ることができました。

バンクーバー五輪の後にシニア転向した羽生は、その後の3シーズンで驚異的なスピードで成長しています。はじめて彼の演技を見たのはそれこそバークーバーシーズンの全日本だと思うんですけど、当時から僕は羽生の演技がどうにも苦手でした。どこまでも中性的で華も熱もなく、感情がまったく感じられない無表情な演技。見ていてすごく不気味に感じたんですよ。それでいて、ステップのときだけはぶわっと赤黒く燃えるようなものが見えるんで、それがすごく怖かったんです。

シニアでの経験を積み、国際大会にも数多く出場して精神的にもタフになり、また身体の正当な成長に従って体力もついたことで、彼の演技はずいぶん変わったように思います。少しのミスでは動じなくなったし、むしろ演技の中でミスを挽回する図太さまで身につけた。昨シーズンあたりからは筋力もついて一つひとつの技がカチッと決まるようになって、見栄えもすごく良くなりました。それに伴って気持ちに余裕も出てきたことで、演技の中に感情の表現を織り交ぜることと、パートごとにパワーを入れるところと抜くところの調整までできるようになりました。今回のFSでは、演技後にしばらく立ち上がれなくなっていましたけど、これはつまり演技の中できっちり全力を使い切ることを覚えたってことです。アスリートとしてはこれ以上ない才能です。インタビューを見ていても、2シーズン前はあれほどハキハキと受け答えしてた印象ないんですけどね。成長期ってのは恐ろしいもんですね。眼つきまで自信満々になっちゃってまぁ。

オリンピックの代表は、優勝した羽生と2位の町田、3人目は高橋大輔になりました。3位になった小塚は落選。全日本で5位に沈んだうえ膝の不安もある高橋ですが、今シーズンの成績を見ればGPシリーズで1勝しているし、総合ポイントも世界ランクでも小塚より上なので、そういうところが評価されたんでしょう。世間的にも五輪代表への高橋待望論は根強かったわけで、もしかしたらそのあたりも影響したかもしれません。

しかし小塚は悔しいでしょうね。会心の演技で表彰台に上がったのに選考から漏れたわけですから。本人もコーチ陣も悔しいだろうし、小塚のファンもすごく悔しいと思う。僕自身、バンクーバーのときに、応援していた中野友加里さんが全日本で3位に入ったにもかかわらず、4位の安藤が代表に選ばれてすごく悔しい思いをした経験があるので、それがいかほどのものかというのは少しはわかるつもりです。彗星のごとく現れた町田に掻っ攫われたような格好になっているのも、なんとなく似てるしね。小塚自身は、しばらくは気持ちの整理をつけるので精一杯でしょう。四大陸選手権の代表には選ばれたようですが、それもどうするか。個人的にはなんとか吹っ切って、もう4年がんばってほしいと思うんですが、立ち直るのは大変かもしれません。

女子は、メダルを獲得した3人がそのまま代表に選ばれました。優勝した鈴木明子は、SPもFSもまさしく圧巻の演技でした。ジャンプもステップも迫力があるし、大きな身のこなしで見るものを惹きつける。会場をあっさり味方につける能力にはいつも驚かされます。それに、4年前と同じように、自分のコンディションのピークをオリンピックシーズンにバチッと合わせて仕上げてくるコントロールの巧さはすごい。まったく憎たらしい。浅田はFSでいくつか目立つミスをして3位に終わりましたが、安定して力を発揮しますね。2回の3アクセルをいずれも失敗したので、オリンピックに向けてはそれをきちんと修正することが一番の課題になるんでしょう。

3位は村上と宮原の争いになりましたが、村上が本人もガッツポーズが飛び出す会心の演技でメダルを獲得。ミスらしいミスもなく、時間を追うごとに自信を深めてのびのびと演技して、見事にオリンピック行きを決めました。村上にはぜひオリンピックにいってほしいと思っていたので、これはうれしい。最近はわりと静かな曲を使って演技していますけど、僕は3シーズン前のSP「ジャンピング・ジャック」が強烈に印象に残っているので、またああいう曲で踊ってくれないかなーと思うんですよね。今シーズンはコンディションがやや整わずにGPでもポイントが伸びませんでしたが、オリンピックではまず楽しんでのびのびとやってほしいと思います。

全日本選手権は国際大会に出場する機会の少ないセカンドグループの選手を多くみられるのも楽しいんですよね。今井遥は昨年大苦戦して18位に沈みましたが、今年の演技はすっごく良かった。SPもFSも実に綺麗にまとめて、しっかり滑りきっての5位でした。この人はずーっと期待されていて僕も長く見てますけど、どうにも突き抜けきれずにセカンドグループに甘んじてしまっているのが残念でなりません。もっともっと国際大会を経験させてあげたいんですけどね。大庭雅もそうで、技術は一定以上あるんですけど、もうひとつ自分の「色」を出して演技するところが足りてないかなぁと思います。大庭はまだ17歳なので、もうひと越えいってほしい。期待してます。

男子では16歳の宇野昌磨ですね。この子は見違えましたねー!141cmとすごく小さいのでまるで子供が滑っているようなんですけど、これでも昨年より背が伸びたと思います。前に見たときはホンットに小さくてコロコロしていて、それでも一生懸命に背伸びして踊っていました。最後にはやっぱりバテちゃって、スピンやフィニッシュはもうヒィヒィ言いながらだったのをよく覚えています。それが、体型もすらっとして体力もそれなりについて、ステップシーケンスでも自然と身体が大きく見えた。スピンもきれいだったし最後もピシッと決めてみせましたし、とても立派でした。将来が楽しみです。

その「将来」、特に次の1・2シーズンは、日本のフィギュアにとっては試練のシーズンになります。まだシーズン半ばで来シーズンの話をするのもアレですが、女子は浅田や鈴木、安藤、男子も高橋、織田といった、長く日本のフィギュア陣を引っ張ってきた選手たちが、このシーズン終わりで一斉に引退します。バンクーバーとソチにおいて「世界で最もハイレベルな代表選考」とも言われたように、ここ数年の選手層は異常なほどに厚かった。それが一気に空洞化する懸念もあります。羽生と村上を筆頭に、次の世代には大きなプレッシャーがかかる。うまく乗り切って2018年につなげられるかどうか、難しいシーズンになります。

まぁでも、まずはソチのオリンピックと、3月の世界選手権。世界フィギュアは今シーズンは埼玉開催です。出場する選手にはまずその舞台を存分に楽しんでもらって、自分のポテンシャルを十二分に発揮して、そしてできれば、きれいに輝くメダルを勝ち取ってもらいたいと思います。