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がんばりすぎずにあるこうや。

【ネタバレあり】ジャッジ! キャラクタを活かすということ

映画館の優待チケット(通常1800円が1000円になる)が手に入ったので、せっかくだから活用してやろうと上映作品をざっと見て選んだのがこの「奔走コメディ」。いま上映してる映画の中では、僕が苦手意識なくラクに見られそうなのがこれくらいしか見当たらなかったんですよね。そういうわけで、なんの予備知識もなく予告編すら見ず、とっても気楽な思いで劇場に入ったもので、正直期待値もそれほどではありませんでした。でもまぁ、そういう風に何の気なしに見に行った映画がめっちゃ面白かった!なんてことは珍しくないわけで。

僕はコメディ映画はそこそこ好きですけど、ベタなラブコメってのはちょっと苦手です。テレビドラマでも、惹かれ合ってるけどつかず離れず、みたいなのが続くのが見ていて楽しい。ジャンルは違いますが、スパイアクションや推理モノも好きなほうなので、たぶんなんらかの"駆け引き"が繰り広げられるのを見るのが楽しいんでしょうね。自分でそういう駆け引きをするはすごく苦手なんですけど。

以下、作品のネタバレを含みますのでご注意ください。たたみます。

主演は妻夫木聡、ヒロインに北川景子という布陣は、軽快なコメディ映画のキャスティングとしては至極無難な印象でした。妻夫木聡は、柔らかい物腰と柔軟な役作りでどんなキャラクタも演じられる素晴らしい役者さんで、それゆえ個人のキャラクタが固まりきっていないという部分もありますが、絵に描いたような「好青年」を当てはめるには打って付け。北川景子は見た目に反せずツンツンした強気な女性を演じることが多いですから、妻夫木聡の相手役としてはこちらも打って付けでしょう。「バカがつくほど正直でまっすぐな青年」と「優秀で気が強くちょっと乙女な女性」という組み合わせは、コメディではよくあるベタなキャラ設定です。その分安心感を持って見られますね。ベタなキャラだからこそ、見ている側にスッと入ってくる。

北川景子演じるひかりは、会社の上司や先輩から「優秀なほうのオオタ」と呼ばれていますが、どう"優秀"なのかがほとんど描かれなかったのはちょっとどうかなと思いました。もちろんダメダメっぷりが存分に描かれている喜一郎(妻夫木聡)との対比なんですけど、見ている限りひかりも仕事中にケータイで競馬中継見てたり(仕事のある時間にそもそも中央競馬なんかやってねぇだろというツッコミはさておき)、PCのモニタには競艇の予想画面が出ててひたすら予想ばっかりしてたりで、こちらも結局ギャンブル好きで何にも仕事してないダメ社員、みたいに見えてしまいます。ひかりのギャンブル好きは実際この映画のストーリーにおいてキーになっているファクターで、それを見ている人にきちんと印象付けたかったんでしょうけど、バランスがちょっとね。北川景子のキャラクタイメージだけで、「優秀さ」をどうにか植え付けようという感じでした。若干ムリあったけど。

一方の喜一郎のキャラクタは、個人的には見ていてもうイライラしてしょうがないです。バカ正直、どんくさい、行き当たりばったり、緊張しい、すぐにパニックになる。「ダメ男」の要素をこれでもかとかき集めたようなキャラなもんで、それでいてちょっと顔がいいってのが余計に癪に障る!ただまぁ妻夫木聡自身もそのあたりは感じてたんでしょうから、ダメなところは徹底的にダメっぷりを演じて、キメるところはビシッと決める、というメリハリを意識したんだと思います。なので、最終的には帳尻が合って「好青年」という一転に収束するんですね。これはもう妻夫木聡の勝ちです。「英語もほとんどわからないのでサンタモニカなんて!」と言っていたのに、外国の審査員とも普通に会話しているあたり違和感はありましたが、会話で使われている英語は聞いた限りでは著しく難しい言いまわしでもなかったし、まぁこれくらいならいいか、と。

脇を固める共演陣も豪華です。豊川悦司は食えないCMプロデューサーを軽~く演じているし、喜一郎のライバル会社のエース広告ウーマンをハマり役で好演した鈴木京香も素晴らしかった。窓際サラリーマンのリリー・フランキーも"いかにも"という配役。ただ、比較的長い時間スクリーンに映ったのはこれくらいで、他の「豪華キャスト」はもう使い方が贅沢すぎるんです。よくまぁあんなちょろっとしか出てこない役で、あんな人たちが出てくれたもんだ。竹中直人なんかどこにいたのかわかんなかったもん。

この映画の監督は元来CM製作を手掛けている永井聡さんで、脚本はこちらも多くのCMを手掛けた澤本嘉光さん。限られた時間の中にある1カット1カットをどう最大限に活かすか、ということを常に考えている人たちです。なので、パッと見た瞬間にそのキャラクタのイメージを掴んでもらうために、またちょっとしたシーンのたった1カットでもそのシーンを最大限活かすために、最適な配役をしたということなのかもしれません。キャスティングにかかる制作費の話は別にして、そういう部分にこだわりを持って労を惜しまないというのは、CMディレクターならではの作り方かもしれませんね。現場の雰囲気も、「映画の撮影というよりは広告作りの空気に近かった」と北川景子は語っていますから、永井監督のカラーが細かいところまで出ているんでしょう。

CM的な手法を多くとっていることで、コメディ"映画"としてはややパンチの弱いものになったことは否めません。小ネタが随所に散りばめられていて小さな笑いがたくさんあるという、これはこれでアリなんですけど、いわゆる「ドカーン!」ていう大きな笑いのネタがないんですね。ネタにつながりそうな伏線は序盤にいくつかあるものの、それも後半の小さなオチや掴みのレベルでポンポンと使われる感じなので、キャスティングの王道感に比べるとどうしても見劣りします。どちらかというと、国際広告祭の審査をめぐるヒューマンドラマ色のほうが強かったように思います。賞レースを関わる駆け引きや若者とベテランの感情の交差、それにちょっとしたロマンス。ドラマも描きたいけどコメディ色も消したくない、欲張りな構成です。ああ、ドラマを描きたいからわざと笑いを小さく抑えたのかもしれないな。そのほうがメリハリがついて見やすいですしね。

あと、小さなネタが多いってことはひとつひとつはわかりやすいってことなので、ネタバレを避けて知人に紹介しようとするときがなかなか難しい。面白さを伝えようとして話してると、ポロッとバレてしまいそうでね。小ネタは小ネタでちゃんと笑えるんですけどね。僕が見ていたときも「ハハッ!」って笑って見てた人いましたし。

まぁでも、最終的には北川景子に全部持っていかれましたよ。あの人、あんなにカッコよくて、あんなにカワイイ人だったとは、全然知りませんでした。見終わったあとはまさしく「やられた!」って感じ。

お決まりの路線としてひかりは喜一郎に惹かれていく(ように見える)わけですけど、その過程でどんどんかわいさが右肩上がりなんです。昔の友人として玉山鉄二が登場して、結局この2人はどういう関係だったのかイマイチわからずじまいでしたが、彼とカジノで喜一郎の話してしている様はベタベタなツンデレだし、その夜は帰ってこないはずがなんだかんだ戻ってきちゃって、「別に心配してるわけじゃないし」なんて言っちゃうところなんかもう、見てて壁殴ってやろうかと。
その一方で、ホテルのロビーでジャックとギル(広告祭の"ツートップ")の会話を聞きつけて、咄嗟の機転で情報を手に入れ、まっすぐに喜一郎の首根っこを?まえて闘志メラメラになるところは、ただひたすらにカッコイイ。先の「優秀なほうのオオタ」の実力はここで遺憾なく発揮されるわけですけど、流ちょうな英語でパキパキとプレゼンする様はまさしく「デキるオンナ」。ハマってました。すごい。

実をいうと、僕は今まで北川景子がいまひとつ苦手でした。吊り上がった眉でギッ!と睨みつけるような視線がどうにも怖くてね。気の強い女性は悪くないけど、あの人徹底的にバチバチやるじゃない。見るもの触れるもの全部打ち落とすような空気を持ってて、そこがどうにもダメだったんです。

でも、今回のこの映画で印象が完全にひっくり返りました。まいりましたね。北川景子自身は「もっとこうしたいと思うこともあったし、苦しいと思うこともあったけど、『広告の素材』としての自分を試されていると気づいた」と語っているし、永井監督は「監督の言ったことを100%表現するにはどうしたらいいか、というところをきちっと考えて演技をしてくれる」と評していますから、つまり根っからの"女優"なんですね。脚本を自分でしっかり咀嚼して、キャラクタを作って、監督の意図を汲み取って、それを全部意識してやっているってことなんですよ。プロだ。ラストシーンでの「・・・・なんかやだ」が、もう最高に可愛かったです。ドッキューン!ですよ。くっそー、やられた。

それから、豊川悦司の秘書役で出てた女性。誰よ!誰なのあのメガネ美人!クールに決めてるけど可愛さが隠し切れない感じがなんとも魅力的です。帰ってすぐ調べましたよ。"玄里"と書いて「ひょんり」さん。27歳。もっと若く見えます。テレビドラマよりも映画のほうに多く出演している、日本ではちょっと珍しいタイプの女優さんです。韓国籍で、日韓英のトリリンガルだそうです。よし、覚えておこう。

パッと見てひょいと選んだにしては、見どころもあって笑いも感動もあって、存外に当たりな作品でした。期待値がそれほど高くなかったのもあるでしょうね。でも、これはオススメできます。キャストのファンも、コメディが見たい人も、ヒューマンドラマが見たい人も、それぞれがそれなりに満足できる映画だと思います。周りを気にしないで、笑いたいときは笑っていい映画だと思うので、楽しい気分で見たい人にもおすすめ。2014年の初笑い、いただきました。