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がんばりすぎずにあるこうや。

【ネタバレあり】魔女の宅急便 Fly, fly, FLY.

スタジオ・ジブリのアニメ作品はたくさんありますけど、僕は断トツで「魔女宅」が一番好きです。魔女宅の何が好きなのかと訊かれても上手く説明できませんが、あの映画に流れる雰囲気、空気感みたいなものがすごく好きなんだと思います。ジブリの魔女宅が公開されたのは1989年のことで、僕の家庭にはアニメ映画を見る文化がほとんどなかったので、劇場で見たわけではありません。ただ、テレビでは何度も放送されているので、それを見ているうちに好きになってしまったのですよね。「おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。」というキャッチコピーの通り、キキの元気が全部を吹っ飛ばしてくれるような、明るい雰囲気が好きなんです。

なので、魔女宅が実写映画になると聞いて、何とはなしに「これは見にいかないと!」と思いました。キービジュアルや場面写真が公開されてちょっと不安になったりもしましたけど、予告編を見たらやっぱり気になっちゃって。で、「映画の日」と重なった公開初日に行ってきました。キキに会いに、行ってきました。

以下、作品のネタバレを含みますのでご注意ください。たたみます。

ジブリアニメのイメージがあまりに強いので、公開前には不安論や否定論、果ては「実写の時点でクソ」なんていう過激な論調まで見られました(見てもいないのに!)。僕だって不安がなかったわけじゃありません。キービジュアルや静止画写真が徐々に公開されたり予告映像を見たりして、僕の中の魔女宅の世界観を壊されてしまわないかと不安になったりしました。ジブリの魔女宅が好きであればあるほど、そういう不安は大きいと思います。それはもうしょうがない。

でも、そういう不安は全部杞憂でした。これは紛れもなく「魔女の宅急便」です。ジブリ版の「魔女の宅急便」はやっぱり大好きで、これはその魔女宅とは全然別のものですけど、でもこれも「魔女宅」なんです。世界観が壊れるどころか、もうひとつ新しい魔女宅の世界を見られて気がして、僕はとっても楽しかった。見に行って大正解でした。

キキを演じたのは小芝風花ちゃんという新人の女優さん。これが銀幕デビューの16歳。キキは13歳の設定なので、ちょっと上になりますね。この時期の3歳差は大きいけど、でも本当に13歳の人が演じたらここまでしっかりキャラクタを作れなかったかもしれないとも思うので、いいと思います。真っ黒が相場だと思っていた魔女服には、赤いステッチが入ってちょっとおしゃれになってて、最初はなんか変な感じがしましたけど、そのうち気にならなくなりました。良く似合ってました。 楽しいときには思いきり笑って、悲しいときにはどん底まで落ち込んで、やることはちょっとズッコケでなんか頼りなくて。失敗して落ち込んで、立ち直って、強い意志をもって一歩を踏み出す姿は、まさにキキそのものなんだなぁと。感情に合わせてくるくると変わる表情がとてもかわいくて愛らしくて、見終わることにはすっかり彼女の魅力に引きこまれていました。いやあ、素敵な女優さんがいたもんだ。

キキの相方である黒猫のジジは、完全CGで再現されていました。これがねー、個人的には大変不満です。僕は魔女宅が大好きで、なかでもジジが大好きなのです。ジジのせいで、ネコや動物が好きになったと言っても過言ではない。なのに、そのジジがあんなに現実味のない姿になってしまったことが、なんとも悲しくて仕方なかったです。全然ネコらしくないんだもの。かわいくない。いまの技術なら、本物の黒猫を連れてきて、上手く声を当てるってこともできるはずなんですけどね。声を当てていたのは寿美奈子さんかな?完全に女の子な声だったので、これも不満。

黒猫のジジっていうのは、魔女の卵キキのもうひとつの姿なんです。キキが目いっぱい楽しんで笑っているときには、一緒になって楽しんでくれる。悩んで落ち込んだときには、本心ではきっとこう言ってほしいのだと思うことを言ってくれる。大丈夫かなと迷ったときには、前に踏み出すための最後の一言で背中を押してくれる。ジジは、キキの心の奥に眠る「もうひとりのキキ」そのもので、キキの裏の姿でもあるわけです。だからアドバイスも反抗も適格だし、キキととても息があってるわけです。

そういうジジの良さやキキとの関係性が、いまひとつきちんと描かれていなかったのは残念でした。ジジはただキキのそばにいるだけじゃない。大事な大事な相棒なんだっていうことを、もう少し丁寧に描いてほしかったなぁ。

薬を調合する力を持っているお母さんと違って、キキは「空を飛ぶ」ことしかできません。だから、空を飛ぶことに関しては尋常ではないこだわりと強いプライドを持っています。心に迷いがあって、そのせいで森に墜落して箒を壊してしまったときには、そりゃあ大きなショックを受けたことでしょう。そういうところをちゃんと描かれていたし、トンボとの関わりで気持ちに余裕ができて、飛ぶことを思い出したときの強い眼つきには、正直鳥肌が立ちました。「箒が飛ぶんじゃない。私が飛ぶんだ」という台詞には、何のために、誰のために飛ぶのか、どうしてここにいるのか、そういう難しいこともあるけど、でも単純に「"飛ぶ"ことを忘れてはいけない」というプライドを感じました。

小さな女の子がこうして少ぅし成長するところを見られるっていうのが、魔女宅の一番の魅力かもしれません。応援したくなるのよね。

倉木麻衣のさわやかなエンディングテーマが流れたあと、「もうすぐ1年が経とうとしています」というナレーションが入って、この映画は終わります。いやいや、なんだあの思わせぶりな終わり方は!続編でもやる気なんでしょうか。でもそういうお知らせは何もなかったし、今に至るまでそういう報道も一切出てないし、どういうことなんだろう。気になって仕方ないです。今回の映画も原作の前半部分しか描けていないということだし、続編がないとは限りません。はてさて。

とても楽しい映画でした。食わず嫌いをしないで、ジブリ版のファンも原作のファンも、一度見てみてほしいなと思います。難しいことはあまり考えないで、目の前にあるものを楽しめばいいじゃない。ね。