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がんばりすぎずにあるこうや。

【ネタバレあり】リトル・フォレスト-冬/春- "暮らす"ということ

この映画のことを知ったのは、数週間前に見た「ANNIE」の前に流れる予告編でした。田舎の物語や人間ドラマはそれほど引かれることはないんですけど、どうやら美味しいそうな料理やお菓子がたくさん出てくる話らしい。でも別に料理人が主人公というわけでもないみたい。へー、なんか不思議な感じ。で、見てみようかなと思ったのです。

見たのは「冬・春」編の予告で、実は四季を通した四部作。「夏・秋」編が既に昨年のうちに公開になっていて、そのDVDが1月末に発売だと。いいタイミング。これはもうアタマから通して見ろってことだなと思って、発売になったばかりのDVDをさっそく借りて「夏・秋」編をじっくり見て、そして今回「冬・春」編を見に行ったのでした。

以下、作品のネタバレを含みますのでご注意ください。たたみます。

東北にある小さな集落「小森」で暮らす、いち子、キッコ、ユウ太の3人の若者を中心に、食べることと作ることを通して「生きる」ことを考えるドラマ。スーパーで買うこともあるようだけど、米や穀物や野菜はそのほとんどが自らの手で育てて収穫したものを食べる。都会とは全く違う時間の流れと、そこに生きる人たちとの小さくとも強い関係の中で、若い自分は何をして生きているのかを考える。

劇中では「○th dish」というような字幕が出て、料理やお菓子をこしらえるシーンと、それにまつわる短いエピソードのシーンが織り交ざって進みます。会話があまりなく、独白のようなナレーションとともにエピソードが語られて、主人公「いち子」の心の機微が透けて見えます。「夏・秋」編に比べると「冬・春」編は、過去の回想シーンが多くなっていて、いち子を置いて疾走した母・福子に対する言いようのない感情がぐっと伝わってくる気がします。

母への思いや、変わっていく親友たち、小森という土地、暮らす人々、いろいろなものに振り回されて自分を見失いそうになってしまう。でも、それを吹っ切るきっかけになったのも、やっぱり母からの手紙でした。これと決めたら脇目も振らずに一心に突き進むいち子の姿は、いっそ清々しくもあります。

主演は橋本愛。オールロケで実際に自給自足のような生活としながら撮影したということで、料理をしたり農作業をしたりするシーンは妙に生々しいです。寄合で村の人たちと世間話をする場面は、さながらドキュメンタリーのように生きた言葉が並べられていて、ドラマを見ているという感覚を忘れてしまいそう。それだけ地元に溶け込んだ中での撮影だったということでしょう。

ただ、いち子の暮らしぶりにはあまり現実味が感じられなかったというのも素直な印象です。たくさんの種類の野菜を育て、米もいろいろな種類を作り、さらに日雇い仕事や村の寄合、もちろん家事もこなさなきゃいけない。そんなに全部を一人でできるものなのかな、というのが気になってね。僕は田舎暮らしをしたことがないので本当のところが全然わかりませんけど、どうもしっくりきませんでした。

とはいえ、今現在僕も一人暮らしをしている中で、「生活する」ことがどれほど大変なことかというのは実感してきているつもりです。程度の差はあれどそれはどんな人にも共通で、だからこそ母の偉大さというのを噛みしめるわけです。たくさん苦労もあるし辛いこともある。正直めんどくさいことばっかりだ。でも、一人ならではの楽しみもあって、好きなときに好きなものを好きなように作るとか、レシピにない冒険をしてみるとか。そういう楽しいことや面白みを見つけて、それを糧にしてやっていく。それが「生活する」ってことなんだと思います。

登場する料理やお菓子はどれも美味しそうで、見てると料理したい欲が刺激されてきますね。パウンドケーキなんか長らく作ってないな。作ろうかな。つきたてのお餅は本当に美味しいです。僕はきな粉もちとあんこもちが大好きで、子供のころは毎年末に祖父母の家で餅つきをしていたのを思い出します。思い出したらお腹すいてきたぞw

万人におススメできる映画ではないですが、料理が好きだったり、美味しいものが好きだったり、軽めの人間ドラマが好きだったり、そういう方にはぜひ見ていただきたいと思います。面白いというか、するっと見られて、ふわっとあたたかい、そんな映画です。


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