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がんばりすぎずにあるこうや。

【ネタバレあり】007 Skyfall ひとつの時代の終わりと、新たな時代の幕開け

見たい映画がトントンと公開されまして、先日のエヴァQに続いて今度は007の新作を見てきました。今年は007の映画シリーズ第1作「Dr.No」が公開されてから50周年ということで、いつになく盛り上がっているようです。ロンドンオリンピックの開会式で、女王陛下をエスコートしてバッキンガム宮殿からオリンピックスタジアムに向かう演出は、とても印象的でした。早起きしてテレビを見ていましたけど、007のファンとしてはあれが見られただけでその価値があったというものです。国を挙げての大きなイベントで、女王陛下のシークレット・サービスとしての役目を与えられたという事実は、ジェームズ・ボンドがイギリスを代表するシネマ・スターとして認められたということに他ならないでしょう。

以下、作品のネタバレを含みますのでご注意ください。たたみます。 

今回はびっくりすることが満載でありました。全体を通して「世代交代」が大きなテーマになっていて、オープニングのボンドの墜落シーンはその布石になっていました。ボンドが死ぬと話が終わっちゃうので、どういう形で復活してくるのかと思ってましたが、ああいう形は意外でしたね。つまり当初彼自身は復帰するつもりがなかったということで、後に出てくるシルヴァと同じような「Mに裏切られた」という心境だったのかもしれません。境遇はだいぶ違いますけど。

久しぶりに復活した「Q」は、とびっきりに若かった!長らくQを演じていたデズモンド・リューウェリンが亡くなって、ジョン・クリーズが後を継いで「Die Another Day」の1作だけQとして登場しましたが、結局それ以来不在だった兵器開発担当(Quartermaster)のポジション。10年ぶりに登場したQは、「ニキビが浮いてる」ほどの若造でありました。ベン・ウィショーの演じる新しい「Q」のキャラクターは、リューウェリンの「ハイテクメカニックマン」とまったく違って、現代的な「天才エンジニア」そのもの。白衣もなし、ガレージもなし、長々とした口上も、派手なデモンストレーションもなし。でもアタマは最高にキレます。現場経験豊富な年上のボンドを、短いやり取りだけで見事に納得させて見せる様は、見ていて実にクールでした。僕はリューウェリンが作り出す数々のハイテクメカが大好きな機械小僧ですけど、一方で現役のシステムエンジニアでもあって、ですからウィショーのキャラクターには強烈に惹かれましたね。今まではQが作ったメカをボンドがいかに巧く使うか、というところが見どころの一つでしたけど、これからは現場でボンドとQが連携することもできるわけです。ワクワクしますよ。そういう新しい一面を存分にみせつつも、「壊さずに返してくださいね」というQの決め台詞とちゃんと残してくれたところには、製作陣の粋なものを感じました。

ボンドガールは2人。よりそのポジションに近いのはベレニス・マーロウのほうでしょうね。マカオのカジノで登場(正確には上海の高層ビルが初登場ですが)し、廃墟になった無人島に行く船の中でボンドと親密になって、とここまではよかったんですけど、結局その連行された島でシルヴァにあっさり射殺されてしまうっていうのはどうなのかと。"ボンドガールらしい"活躍を何もしないままに退場してしまいました。これは不満でしたねー。セヴリンがシルヴァをたいへん怖れているのはよく描かれていましたから、本来ならシルヴァを裏切るようにボンドに協力し、それでもシルヴァへの愛に嘘をつけずにボンドを裏切り、最後は結局ボンドに助け出されて、というのを期待したのに。全体のテーマ上そうはできなかったというのはまぁわからんでもないんですけど、あまりにも扱いがあっさりで薄すぎてもったいなかった。ベレニス自身の魅力もしっかり出せていなかったんじゃないでしょうか。

もうひとりのナオミ・ハリスも、活躍というほどの活躍はしてませんけど、見ているほうには鮮烈な印象を残したキャラクターではありました。MI6内部の人だといういことは早々にわかっていましたから、ボンドの「職務上の相棒」の色が強く出ていましたね。トルコでの作戦の後にマロリーの秘書というポジションにおさまったのは、その後のミス・マニーペニーへの"昇進"の布石だったというわけで。しかしあれだけのアクションができるキャラクターなのに、事務職にとどめてしまうのはもったいないなぁ。ゲレンデ・ワーゲンを爆走させるシーンは迫力満点だったんで、ああいうのがまた見たいんですがね。

2人のボンドガールが設定されているとはいっても、今作のヒロイン格にいるのは"M"でありましょう。この「Skyfall」は、疑う余地なく「ボンドとMの物語」です。この二人の間にある独特の空気感というのは、言葉では表現しがたいものがあります。日本的に言うと"つぅかぁ"で通じ合っているというか、ビジネス上の上司と部下ではありますが、それよりももっと深いところでつながっています。この二人の"絆"は、本当に強いものなんですよ。

だから、ラストシーンの教会でMが倒れたとき、もう何が起こっているのか理解できなかった。Mは今生の別れみたいな台詞を喋っているし、ボンドはどこか諦観したような目で見ているし、いやいや、そんなはずがなかろうと。あれでしょ、いってもちゃんとボンドが連れて帰って助かって、次のシーンでは(腕を吊ったりして万全のコンディションでないにしろ)いつものようにボンドに「新たな任務よ。準備はいい?」ってファイルを渡してくるんでしょって、思ってました。MI6の屋上でイヴが「Mの遺品よ」と言ったときでさえ、その台詞は演出によるものだと信じていました。そうやく思考が追い付いたのは、ボンドがマロリーを指して「いつでもいいさ、"M"」と言ったとき。つまりは一番最後の台詞で、です。

認めたくなかったんだよ、あの強いMが死ぬなんてさ。

実際の話、12月に78歳を迎えた"デイム"・ジュディ・デンチは、加齢性黄斑変性によって視力が著しく低下し、すでに台本が読めなくなってしまっているのは知っていました。ですから彼女が007から引退するのも時間の問題であるとは思っていたんですが、こういう形でいなくなるというのは、何とも悲しいしショックが大きい。後任がマロリーになるにしても、もうちょっと穏やかに「引退」という形はとれなかったものなのかな。そうすればこんな気持ちになることもなかったのにな、と。でもその一方で、自らの人生を職に賭しているMが「引退」なんてするだろうか、という思いもあるにはあるわけで。誰もが納得する形はなかったのかもしれません。製作陣も悩んだはずなんだ。うん。

「GoldenEye」から007を見始めた僕にとっては、Mとジュディ・デンチはまったくイコールの存在でありました。Mが作品からいなくなったいま、僕の中ではひとつの時代が終わったようなものです。それは間違いない。それくらい彼女の存在感は大きいものでしたからね。でも、「ああ、終わったんだなぁ」ですまさせてくれないのが007チームの憎いところで、すでに「次の時代」が始まっているんですよね。マロリーとイヴ、ウィショーの"Q"、新しい007チームは、僕をワクワクさせてくれるに十分な魅力を持っています。だから、すでに製作が決定している次回作にもめちゃめちゃ期待してるし、今度はだれがどんな活躍をして見せてくれるんだろうとドキドキしています。飽きさせないよね。

007は50周年を迎えました。次の半世紀、僕にどんな感動を与えてくれるのかを楽しみにしながら、また次の作品を待とうと思います。