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がんばりすぎずにあるこうや。

【ネタバレあり】万能鑑定士Q-モナ・リザの瞳- そういえばミステリー

原作の「万能鑑定士Q」は、いわゆる謎解き小説にハマっていたころに、初めの2巻だけ読んでいました。「人が死なないミステリー」という触れ込みで、人死にのある物語が大の苦手な僕にとっては、まさにうってつけの作品でした。ですが、話の終わり方がどうにもしっくりこなかったり、作品全体がモヤッとした雰囲気に包まれているのがどうにも合わなくて、結局それ以降のシリーズを読むには至りませんでした。ブクログでも☆2になってる。

でも、扱っているテーマは壮大だし、キャラクターは個性が立ってて魅力的で、強烈に印象に残った作品だったことは間違いないのです。だから、この実写映画化されると知ったときに、何とはなしにまず見ようと決めたんですよ。結局、雰囲気が暗いのが苦手だとかいいつつ、僕は松岡圭祐の描く作品の空気感にガッチリとハマりこんでいたわけです。

以下、作品のネタバレを含みますのでご注意ください。たたみます。 

導入として登場する2つの推理、すなわち「チラシの画像は編集されている」話と「音のマスキング」の話は、僕が読んだ原作にも載ってました。なので「あ、あれか」とすんなり映画の中に入っていくことができて、とても助かりました。些細なエピソードではありますけど、特に画像編集の話は「へぇー!」と唸ってしまうような内容なので、原作を呼んでいない人もこれで一気に引き込まれてしまうのではないかな。

この導入部分がきっかけになって、小笠原と莉子の関わり、ルーブルでの学芸員試験、軽井沢での合宿まで話が流れていくんですけど、このあたりまで「事件」のにおいがこれっぽちもしないもんで、そのうちこれがミステリー映画だってことを忘れてしまってました。最初はおそらくモナリザを展示している最中で何か事件が起こるんだろうなと、それを莉子が名推理していくのかなと思って見てたんですが、軽井沢合宿でのトレーニングをやたらと丁寧に描いていて時間もたっぷりとってあるので、本題が見えなくなって忘れてしまうという。

ところが、これこそがこの映画の最大のトリックだったわけで。映画が終わって全体を思い返してみたときに、見ていた僕のほうまでトリックに盛大にハマっていたのだと気付いたときの「やられた!」っていう感覚は、もうたまりませんでしたね。事件が表面化してからの展開は実にスピーディで、莉子の機転と推理、小笠原の泥臭さがよく描かれていました。こういうコントラストがきちんと表現されているのは良いですね。最後の「本物さがし」が蛇足に過ぎたかなという印象はぬぐえないものの、ああしてまとめるからこそ物語が締まるのかなとも思うので、まぁいいか。

僕が読んだ原作は、事件の後日談が何もなくて尻切れトンボな感じがしてモヤッとしてしまったんですが、この映画には少しですが描かれていたし、後味良くすっきり終わってくれたのが良かったです。クールダウンして結末をしっかり描くってのは大事なことですね。見るほうにも安心感が出るしね。

主演は綾瀬はるかと松阪桃李。僕は綾瀬はるかは特に好きというわけでもなく、CMで見たりしてもあんまり引っかかってこないなーという感じの人です。でも映画で長い時間ずっと見てると、不思議とだんだん引き込まれていくんですね。終わるころにはすっかりそのキャラクターに魅了されている。なんとも面白いです。綾瀬はるか自身はたいそうな天然さんだということは広く知られていますけど、演技ではそんなの微塵も感じませんし、いろんな役をそつなくこなすオールマイティな女優さんです。強烈なインパクトのあるキャラクタではないし、映画が終わってしばらくすればその印象はまた霧散してしまうんですが、こと作品の中ではとても魅力的になる人です。面白いなこの人。

松阪桃李は、戦隊もの出身ということで僕もけっこう注目している俳優さん。今じゃすっかり売れっ子ですね。この人はわりとキャラが確立されてきた感があって、なので原作の小笠原とはちょっと感じがズレてるかなーと思いました。ただそれが悪いかというとそうではなく、持ち前のキリッとしたイケメンの雰囲気と、メガネをかけた冴えない男の雰囲気をうまーく使い分けて演じていたのが好印象。この人はどんなキャラクターでもスマートにこなしますね。

僕は美術に関してはからっきしなんですけど、でも「モナリザ」って誰でも知ってる"美術のシンボル"みたいなものじゃないですか。だから、なんとなく知った風になって見られちゃうんですよね。でももちろん知らないこともたくさんあるので、そういうのを知れるのも面白いです。なかなか印象深い映画でした。おススメです!


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