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がんばりすぎずにあるこうや。

サッカーにおけるビデオ判定論

結局ワールドカップについて何にも書かないまま、決勝戦も終わり、Jリーグも再開してしまいました。今年のワールドカップは、スカパー!のおかげでけっこうな試合数を見ることができて、こんなにワールドカップを楽しんだのは初めてです。世界最高のプレーの数々を、思う存分堪能しましたよ。楽しかった。

ワールドカップについて何か書こうかなぁと思っていて、さて何を書こうかと考えていたんです。日本代表の"予想外の"活躍とか、スペインの優勝とか、ベスト8の顔ぶれが「これはコパ・アメリカ2010だ!」だったのに、ベスト4になるとあっという間に「実はユーロ2010だった!」になっちゃったこととか、いろいろ考えたんですけど、結局「ビデオ判定導入論」の話にしました。

ラウンド16のドイツ-イングランドの試合でずいぶん話題になった、結果的に"世紀の大誤審"になってしまったフランク・ランパードミドルシュート。あとから映像で見ると、もうボール3個分くらいゴールに入ってましたんで、大騒動になってしまいました。イングランドファンの僕も、リプレイを見て「入ってんじゃんかよー!」と叫んでしまったものですが、たしかにあれはラインズマンでも判断しづらい。クロスバーに当たったことでボールに逆回転がかかって、ゴールの外に戻るような形になってましたからね。これはこれで、しかたない。

この判定で、またにわかに「サッカーにもビデオ判定を!」という声が出てきそうな感じでした。あれほど頑なに「テクノロジーが入るためのドアは閉ざされている」と語っていたFIFAブラッター会長でさえ、再検討する余地があることをほのめかしています。実際、2010/2011シーズンのUCLでは、ゴールライン上の審判員を置くことになったそうですし、10月のIFABではテクノロジー導入についても議論されるとか。

ビデオ判定導入はたびたび出てくる議論ですけど、僕は「サッカーにはビデオ判定は合わない」と思ってます。ビデオ判定が導入されている競技はいくつかありますし、その有効性は十分わかっていますけど、サッカーには会わないんじゃないかと思ってるんです。

ビデオ判定が導入されているのは、野球、アメフト(NFL)、相撲、テニス。広い意味では、ショートトラックフィギュアスケートもそうかな。さて、これらの競技の共通点は何か。

どの競技も「プレイクロックが"ない"か、"止まることがある"」んです。つまり、VTRを使った判定を行うための「タイミング」と「時間」を、試合の途中でも簡単に確保することができる。ひとつひとつのプレイに要する時間も短くて切りやすいから、"やりなおし"もしやすいんですよね。

僕がビデオ判定について一番よく知っているのは、アメフト(NFL)です。NFLには「チャレンジシステム」(インスタント・リプレイ)というのがあります。タッチダウンなどの判定に異議のある場合、その判定にに対して"チャレンジ"することを宣言し、ビデオ判定を依頼する仕組み。この間プレイクロックは止められて、リプレイウォッチャーがVTRを確認して、レフェリーに伝えるわけです。

余談ですけど、このビデオ判定結果が、レフェリーから発表されるときの緊張感はすごいですよ。6万人もいる観衆が静まり返って、レフェリーのアナウンスに耳を澄ますんです。テレビで見ているこっちまでドキドキしてしまう。そんなショー要素まであるのが、NFLのビデオ判定です。

もちろん、タダで何度でもビデオ判定してもらえるわけじゃありません。「チャレンジ」には、チームのタイムアウトの権利を1回賭けることになります。前後半で2回ずつしかないタイムアウトを犠牲にする、そういうリスクを負ってチャレンジする。チャレンジが成功して判定が覆ると、そのタイムアウトは戻ってきます。失敗ならば、罰としてその権利をはく奪されるということ。

NFLのビデオ判定は、アメフトの「時間が止まる」ルールがある上に、相応のリスクを冒して行うものという、実は高度にシステム化された制度なわけです。

テニスのATPワールドツアー、WTAツアーの一部の試合でも同様の「チャレンジ」があります。こちらは「ホークアイ」(鷹の眼)と呼ばれるシステムを使ったもので、コート周囲に設置されたカメラがボールの軌道を監視し、コントロールシステムが解析するもの。選手が「チャレンジ」した際には、コンピュータグラフィクスでボールの軌道、落下点を表示します。「チャレンジ」は1セットにつき3回まで。チャレンジが成功した場合、権利は失われずに保持されるというものです。ライン際のきわどいボールの軌道に対してチャレンジする場合がほとんどです。

テニスの場合、判定の対象が「ボールはラインの外に落ちたのか、内に落ちたのか」とはっきりしているので、ビデオ判定にかかる時間もほんの数秒で済みます。ビデオ判定がものすごくやりやすい環境にあるわけです。対してアメフトでは、ライン際の攻防で、ボールだけでなく多くの選手が関与しているため、ビデオ判定に数分かかることもあります。その間クロックが完全に止まっているので、成り立っているようなものです。

サッカーは、キックオフしたら最後、45分間はプレイが流れっぱなしです。ルール上プレイクロックも止まらないから、「やりなおし」が利かない。アウト・オブ・プレイはあるけれど、試合が始まってから終わるまで、ずっと流れは止まらない。こういう競技に、ビデオ判定を"してる暇なんかない"と思うんです。ノーリスクでやってもらうのも変だし、選手交代枠はビデオ判定の対価にはあまりに大きすぎるし。先日のランパードのシュートだって、あの後抗議してビデオ判定のために数分間も止まるのも変だし、プレイ中にビデオ判定しておいて「やっぱゴールでした~」も変じゃん?w

なので、サッカーにおいて微妙なプレイの判定を厳格化するのって、ものすごく大変なことだと思うんですよ。だからって何もしなくていいってわけじゃないですけど、そのシステムを設計するのには、多くの労力と時間と実験が必要になると思います。ゴール判定員というのも、まぁひとつのやり方ではあると思いますね。

個人的には、ボールにチップを入れてセンサリングするシステムは、やり方次第で有効かと思っています。空中でのアウト・オブ・プレイがあるサッカーにおいては、ラインアウトを人間の目できっちり判定するのはなかなか難しいと思いますし。スタジアムの改修費用やボールそのものの設計など、課題は山積みですが。

ファウルの判定は主観が入るからある程度いたしかたないにしても、VTRで明らかになってしまうような誤審は、テクノロジーを使ってできる限り是正するべきと、僕は思います。これだけワールドワイドなスポーツなんだから、可能な限りフェアであってほしい。「ミスもサッカーの一部」というのは言いえて妙ですけど、ミスはできるだけ少なくするに限るでしょうからね。