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がんばりすぎずにあるこうや。

天皇杯3回戦 シビレる試合

第91回天皇杯 全日本サッカー選手権
3回戦 柏レイソル○6 - 1●ヴァンフォーレ甲府

柏と甲府が同じ山に入った時点で、この日のこのカードは目をつけていたんですよね。2回戦で順当に両チームとも勝ち上がって、家から近い場所でもう一度この対戦を見るチャンスが巡ってきた。片や優勝争い、片や残留争いの真っ最中で、リーグ戦ではチャンスの少ない選手もたくさん見られるかもしれない。なので、今回は奮発してS席中央をとって、じっくりとサッカーを堪能することにしました。

目下J1の頂点に最も近い場所にいる柏と、過酷な残留争いから抜け出せない甲府。両極端の状況にある両チームのスタメンは、少々意外なものになりました。まずホーム扱いの柏は、GKに菅野。バックスは酒井宏樹、増嶋、近藤直也、橋本。ボランチに大谷と栗澤がいて、その前にレアンドロ・ドミンゲスジョルジ・ワグネル工藤壮人と北嶋のツートップです。対するアウェイの甲府ですが、GKに久しぶりに登場の荻晃太。4バックは右から、吉田豊小林久晃、犬塚、内山。中盤3枚に伊東輝悦、保坂、石原克哉。堀米、養父、ダヴィのスリートップ、だったと思います。「思います」の中身は後ほど詳しく。交代カードは、柏は林稜平と田中順也の前線2枚と水野晃樹甲府は松橋、津田琢磨、小池の3人でした。

結果は6-1で柏の圧勝でした。10分に柏がジョルジのミドルで先制したものの、甲府は直後に吉田のグラウンダーのクロスがこぼれたところに養父が右足を振りぬいて同点。競った試合が見られるかなと期待したのも束の間、柏は工藤、北嶋、橋本のどれも見事なゴールで甲府を突き離し、後半から登場した田中順也も素晴らしい2ゴールで"エース"の貫録を十分に見せつけ、終始ゲームを支配したまま試合を終えました。

90分の間、柏には「うわぁー!」とか「すっげぇぇぇええ!」って唸ってしまうようなプレーが盛りだくさん。予想に反して主力メンバーを惜しげもなく出場させた柏ですが、全員がしっかりと自分の役割を理解していて、どうすれば自分の仕事を全うできるか、また自分の強みを活かしてもらうにはどう動けばベストなのか、常に考えながらピッチを走っています。パスやクロスボールに大きなミスがほとんど見られないのは、もちろん個々人の技術が高いこともありますが、練習からお互いの意識をちゃんと共有していて、クセや考え方をわかり合っているのが大きな要因ではないかと。だから多少のズレなら受ける側で容易にアジャストできるんですね。練習の量も質も、ずいぶんとレベルが高いんじゃないかしら。「このチームは強い」と、あらためで印象付けるに十分な試合でした。

浦和との残留争いがどうやら最終節までもつれそうな甲府は、週末のリーグ戦を見据えてあからさまにメンバーを落としてきました。保坂は試合後「ゲーム勘というのは思ったよりないという感じではなかった」とコメントしていますが、僕自身の見た感想は正反対です。今回の出場メンバーには明らかに「試合勘」が足りていませんでした。保坂自身、中盤でプレーした最初の35分間は驚くほど消えていて、流動的にポジションを変えるのはいいとしてもその効果がまるで感じられない。チェックを簡単にかわされ、結果的に開いた中央のスペースで栗澤とレアンドロに自由にやらせてしまうという展開で、途中から犬塚と位置を交換してました。中盤から前線の構成はちょっと不安定なところがあって、堀米は右サイドに張っていたんですが、石原と伊東は中盤で上下左右に動き回ってポジションを固定せず、ダヴィと養父が並んでボールを待っている。さきほどの「スリートップ、だと思う」の正体はこれです。前線はツートップの形にセットされていて、左の深い位置を安定して使う選手がいない。すると柏はここに力を置く必要がなくなるので、ライトバックの酒井宏樹がグイグイ上がってくるんですね。柏が事実上増嶋、近藤、橋本の3バックのような形でも、オフェンスのセッティングが不安定で容易に守られてしまった。流れの中で状況を把握して対応するのに著しく時間がかかっている。つまり「試合勘がなくなっている」と思うのです。

全体の感想はここまで。ここからは、僕が見たいと思っていた選手たちについての感想を少しづつ書きます。こっちが本来の目的だったんだしね。

まず甲府。最前線に配置された養父雄仁は、久しぶりの公式戦ということもあってはりきっていました。時には中盤まで下りてボールをもらってさばき、左右の深い位置から切り込んでシュートを狙うシーンも。甲府の唯一の得点はこの養父のボレーショットで、こぼれ球が飛んできたときには前に黄色い壁が何枚も見えたはずなんですが、躊躇なくダイレクトで叩き込みました。遠目からでも積極的にゴールを狙っていく姿は、昨年からよく見てきた養父そのものでした。ストライカーという感じでは全然ないんですが、ゴールに向かう姿勢はピカイチだった。ローン移籍中の彼ですが、果たして来年はどうなるでしょうか。

右アウトサイドハーフで先発出場した"甲府の至宝"堀米ですが、決定的な仕事というわけにはいかず。不安定なフォーメーションに窮屈な思いをしつつ、それでもなんとか相手と渡り合おうと必死にプレーしていました。コメントを読むと、自身としても消化不良の試合になってしまったようで、しかし向上心は朽ちていません。同じ若手の吉田豊とは特によく話しているようで、甲府の次世代を担う戦力として立派に成長してほしい。

中盤に入った石原は、養父と同じように気合の入ったプレーを見せてくれました。風貌や表情からはその気合の入りっぷりがよく見えない彼ですが、最終ラインから最前線まで顔を出す奮闘ぶり。柏がバックパスで菅野に戻すと、それを猛然と追いかけるのが、誰であろう石原なんですよね。オン・ザ・ボールでも、栗澤や大谷のチェックに必死に耐えてボールをつなぎ、また走ってボールを受け、と本当によく走りました。いい選手だ。本当にいい選手ですよ、彼は。

そして、帰ってきた"守護神"・荻晃太。公式戦の最終出場は8月20日の浦和戦で、実に3か月ぶりの登場。結果的に6失点してしまいましたが、しかしそれで話を終わらせるのはあまりに惜しい。一番後ろから必死に叫びまくってバックラインに指示を出し、それでもゴールを決められると顔を伏せて悔しがる。前がかりな立ち位置もそのままで、直線的で意図のはっきりしたゴールキックも変わらない。とりわけ、後半に裏に抜けた田中順也へのパスに対して、接触を恐れず顔から飛び込んでガッチリ抱え込んだシーン。この勇気あるセービング姿勢こそが彼の真骨頂であると、荻は以前と変わらず懸命にプレーしているのだと再認識しました。林との1対1やレアンドロへの決定的なパスを防ぐなど、機動力を活かしたセービングは健在。週末のリーグ戦で先発復帰するのは難しいかもしれませんが、彼は何も変わっていません。過去に出場機会が乏しく我慢の時期も多かったことが、忍耐強い精神を生んでいるのかもしれませんね。

柏はこの人。途中出場の水野晃樹です。酒井との交代で、てっきりすこしポジションをいじるのかと思ったんですが、なんとそのまま右サイドバックに入りました。セルティック時代は分かりませんけど、僕は水野のサイドバックを見たのは初めてです。ディフェンス面では増嶋に逐一指示を受けながら自分の位置をきちんを守り、チャンスを作らせませんでした。攻撃面では、右サイドからの鋭く精度の高いクロスボールを久々に披露。これがまた田中順也にドンピシャでして、惜しくもアシストは尽きませんでしたが、本来の主戦場である右サイドで生き生きとプレーする姿を見ることができました。ボランチでの仕事に順応できず夏以降も出場機会が増えていない水野ですけど、ポテンシャルは高いんですよ。あとは使われ方次第だと思うんだよな。黄色い29番、もっと誇らしげに見せてくれよ、コーキ。

ところで、ジェフも磐田を下して4回戦進出を決めました。スタジアムを出たあたりで、周りの柏サポの人たちが「お、ジェフ勝ったのかー」と口々に話題にしてくれていて、とても嬉しくなりました。自分たちはJ1で優勝を狙える位置にいて、ジェフは今年も昇格がかなり厳しいという状況なのにも関わらず、こうしてジェフのことを気にしてくれている。「柏は千葉のことを特別意識なんかしてない」って言われることも少なくないですが、そんなことはないんですよ。たとえJ1で優勝しようと、アジアの舞台で大躍進を遂げようと、ジェフがJ1に昇格したら日立台でまた温かく(そして手荒く?w)迎えてくれるはずです。がんばらないと、ね。

[J'sGOAL]【第91回天皇杯 3回戦 柏 vs 甲府】レポート